お金は払いますと、もちろん言ったけれど、あめさんには聞いて貰え無かったし、受け取っても貰え無かった。
しかも「早く帰りなさい」なんて、大人振った事すら言ってくる…いや、実際あめさんの方が大人なのだけれど、なんか腑に落ちないというか…私、このまま帰っちゃって良いのかなぁ…
「あめさん」
「ん?」
「本当に帰れます?」
「うん」
「ワンメーター?」
「うん」
「家にはしっかり帰って下さいね」
「もちろん」
「何か合ったらすぐミトさんに…」
「ママ、俺もうすっかり大人だから」
心配に心配を重ねる私に笑いながら言ったあめさんは、呆れたように見える一方で、なんだか嬉しそうにも見えた。
「じゃあ…すみません、ありがとうございました」
お礼だけ述べて、長引かせても運転手さんに悪いと、私はタクシーを降りる。
そしてあめさんに「今度お礼しますから」と言うと、あめさんに「いや、いらないし、受け取らないし。大袈裟だからね」と言われ、彼は今度こそ呆れたように笑う。
「でも、それでもします!受けとってくれなくてもします!」
「いーってば。こんな事ぐらい」
「ダメです!私の気が収まりません!」
「……あー、ハルキって頑固」
「知ってます!」
ミトさんにも言われたばかりの昨晩を思い返し、あめさんだって頑固なくせに、と思ったりする。
そして今度こそ本当に挨拶をして、ドアを閉めようとすると、閉める寸前、「ちょっと待って」と声をかけられる。