私の言葉を最後まで聞かずにあめさんが発車するよう促すと、車はゆっくり動き出した。…私の住むアパートに向かって。
一緒にタクシーに乗り込むのは良いとしよう。私も言ったし、ミトさんにも言われたし。でも目的地が私の家だなんて、こんなのただ私が送って貰っているだけだ。どっちが送られる立場なのか分かったもんじゃない。
そんなのは納得がいかないと、あめさんを睨むように視線を送ると、それに気付いた彼は「まぁまぁ」と私を宥める。
「別に気にしないでよ、どっちでも同じようなもんだから」
「同じようなって、そんな訳無いでしょう。お金が掛かるんですから」
「だから、ヘーキなんだって」
「?」
一体何が平気なんだかさっぱり分からない、と、私は不満を全面に出して彼を見る。
「ワンメーター分」
「…はい?」
「ハルキんちから俺んちまでの距離、ワンメーター分も無いんだよね」
そして、「すげぇ近いと思わない?」と、彼は何食わぬ顔で言った。
「わ、ワンメーター分も無い…ですか」
つまり、その分お金が掛からないって事?そんな事ってある?と、怪訝に思うけど、実際に家の場所を知ってる訳でもなければ、タクシー事情に詳しい訳でもない。つまり、真っ向から否定する事が私には出来なくて…
「…分かりました、じゃあついでにお願いします」
と、観念した私は呟いた。
そして、割かと近い私の家に到着したのは、それから数分後の事。