この機会を逃しちゃいけないと、私は全力で「はい、ぜひ!」と、答える。あめさんはニコニコしていた。


「どうしても?」

「はい!」

「じゃあハルキも乗ってくよね?」

「はい!」

「よし、じゃあ離してあげよう」

「はい!……?」


あ、あれ?


そして、可笑しいぞ?と思った時には、いつの間に呼んだのか、知らないタクシーが階段下に一台。どうやら今日は事前に呼んであったらしい。


「どーぞ、ハルキちゃん」


ドアの横に立ち、あめさんはとっても生き生きと、魅惑的に笑った。

…やられた。全ては彼の計算通りだったようだ。酔っ払っているとはいえあめさんは、侮れない。

自分で返事をしてしまった以上断る訳にもいかず、渋々とタクシーに乗り込む。ドアが閉められ、お決まりに運転手から行き先を尋ねられた。


「中下公園前のアパートまで」


そう答えたのは私では無い。あめさんだ。

しかしその、"中下公園前のアパート”は、あめさんの口から出てくるはずが無い。だってそれは、私が住んでるアパートの場所だ。


「え、ちょ、あめさん!」

「ん?」

「うちじゃなくて良いです!あめさんの家から歩いて帰れますから」

「え?何」

「だからうちじゃなくて、」

「じゃあすいません、お願いします」

「えぇ!」