何が起こっているのか、一瞬にして頭が真っ白になった。私を眺める近距離の彼は、とびきり楽しそうな顔をして、「ね?」と微笑む。

何が、ね?だ。こっちはそれどころじゃないっ!


「わ、分かりましたから!分かりましたから離して下さい!」

「えー?どうしよっかなー」

「ダメです!無理です無理!」

「何がー?」

「こ、この距離が!」


きっと私、顔が真っ赤になっているんだろうと思う。すごく顔が熱い。なのに彼は、更に笑みを増して、見詰めてくる目を全然どかしてくれない。こんなに楽しそうなあめさんを見るのは初めてなのに、この状況。今はそれどころじゃない。


「あ、あめさん!」

「んー?」

「離して下さい!帰るんでしょ?」

「んー」

「タクシー!タクシー捕まえなきゃ!」

「んー」


何を言っても駄目だと、力ずくであめさんの手を外そうと試みるが…外れない。離してくれる気が無いって事なのかと、そんな事は有り得ないと思いながらも、でもあめさんだし…と、一向に動かない展開にハラハラし始めたその時、


「そんなに離して欲しい?」


あめさんが尋ねてきた。