「よし。俺、帰る」
その一言と共に、ゆっくり立ち上がったあめさんに続いて私も立ち上がり、タクシーを捕まえる為、大通りまで足を運んだ。
その間のあめさんの表情はにこやかで、先程までの不機嫌さはカケラも見られない。すっかりご機嫌である。
今日のあめさんは気分の上がり下がりが激しかったけれど、あめさんならどんな表情をしていても絵になるんだよなぁ…本当に綺麗で、本当に格好良い。
こっそり彼の横顔を眺めながら、ひっそり私は思ったりしていた訳だけど、
「何?何見てんの?」
うっかり、バレていたりする。
「い、いや?別に」と、知らんぷりをしてみるが、それがあめさんの好奇心を余計に刺激してしまったらしい。
「ねぇー、何?」
「別に、何でも無いです」
「なーに?」
「何でも無いですって」
やたら楽しそうに食いついてくるあめさんから、見惚れていたなんて絶対にバレたくない私は必死に顔を逸らした。
すると、急に伸びて来た手が私の視界に入ったと思ったら、
「いつでもいーくらでも、言ってくれれば見せてあげるのに」
両手で私の頭は押さえられ、グルリと、強制的に顔が向き合う形にされた。
その距離の近いこと近いこと。