いつもの階段からそれほど遠く無い私の家に着いたのはあっという間の事で、隣で爆睡中のあめさんを起こす事無く無事に帰宅出来た。
ベッドに入り、眠る前に、隣で静かに眠っていた彼を思い出す。あの美貌はなんなんだと、その上であの可愛らしさはなんなんだと、真剣に悩んだりしたその日の晩。次に会えるのはいつだろうとワクワクしながら眠りについたのを、私はしっかりと覚えている。
そしてその3日後――、私はいつもの彼といつもの場所で出会った。
「こんばんは、あめさん」
声をかけると、彼は吸っていた煙草の火を消して、ゆっくりとこちらに顔を向ける。
「やっと来たな?もう待ちくたびれた」
不貞腐れたように言うあめさんは、なんだか不機嫌そうだった。あれ?怒ってるのかな、あめさん。
今日はバイトをあがるのが遅くなってしまったから、いつもよりは確かに少し遅い時間。でも、今日居るなんて知らなかったし、待ち合わせしている訳でもないんだけどなぁ。どれくらい待たせてしまったのだろう。
「…ごめんなさい、待たせちゃって」
なんにせよ、待っていてくれたのなら、とっても有難いことだ。とっても嬉しい。だからついでに、 "待ってて貰えたなんて、凄く嬉しいです”なんて言えれば良かったんだけど、どうも私にはそんな気の利いた機能は備わっていなかった。待たせてしまったという罪悪感で頭が精一杯で、シュンとする自分に手一杯。
そんな私を見たあめさんは、大きな瞳で私を下から覗き込む。そして、バッチリと合った私とあめさんの視線。
「いーよそんなの。俺が勝手にしてるだけだし、ただ言ってみただけだから」
ニカッと嬉しそうに笑う彼は、「やっぱりハルキって面白いよね」なんて告げる。