声を掛けて来た割に話し出しもせず、ただぼんやり見惚れて眺めてくるなんて…しかもこんな夜に!なんて気持ち悪い女なんだろう私!そうだよ傘!傘を早く!

やっと本来の任務を思い出し、私は手に持っていた傘を勢い良く差し出した。


「あの、これ!」

「ん?」

「これ、使って下さい」

「……え?」


私のいきなりの申し出に、当然の如く彼は戸惑った様子を見せる。

本当、当たり前だ。見ず知らずの19歳の女に突然傘を差し出されて、戸惑わない方が可笑しい。しかも雨で自分が使うだろうこれを。でも私、実はもう一本持っているのだ。

鞄からもう一つ取り出したのは折り畳み傘。雨が強くなると聞いてビニール傘も持って来たけれど、実は軽量型の折り畳み傘を鞄に常備している。いざという時にあれば困らないので、割と持ち歩いているタイプである。


「私にはこっちがあるので。だからこれ、大丈夫なんでどうぞ」

「いや、」

「あ、ご自宅まで遠いんでしたら、後は大通りに行けばタクシーがすぐ見つかります」

「…えっと、」

「だからこれ、使って下さい」