例の子?


一体どういう事だと、言葉の指す意味が理解出来ない私は、挙動不審に辺りを見回す事しか出来ない。

そんな中、質問を投げ掛けられたあめさんはというと、たった一言、「ハルキだよ」と、私の名前を呟いた。

すると男は、たったそれだけの情報を急に投げられたというのに、「ふーん、ハルキちゃんね」と、なぜか受け入れたような、納得した感じで私の名前を呟いた。


「女の子にしては変わった名前だね」

「…よく言われます」

「いいね、一味効いてて。本名?」


…本名かって?

その質問に、私は少しイラッと来た。この人は私が違う名前を名乗って、悪い事をしているとでも思ったのだろうか。


「…本名ですけど」


人から疑われる事は好きじゃ無い。私の今まで全てを否定されているような気持ちになってしまう。つい、気持ちが態度に出てしまう。

それを察したのだろう男は、「ごめんごめん」と、飄々とした態度で私に謝った。


「別にそういうつもりじゃなかったんだよ。ただコイツが懐くくらいだからハルキちゃんも何か同じ、」

「今帰りなんだ。ハルキも乗ってきなよ」


「ミトの運転荒いけどなぁ」なんて言うあめさんはその人を、ミトと呼んで指差した。

その顔にはいつもと同じ笑顔を浮かべている…まるで何事も無かったかのように。