…見覚えがある気がする、この黒い車。
とは言っても、特に車に対して興味を持った経験が無い私にとって、黒い車ってだけで大概が同じに見える。だから絶対の確信は持てないけれど…多分、コレはあの時の車なんじゃないかな。
あの時の車。それは、あめさんが自分の迎えだと言ったあの車。こんな時間に、こんな所に、こんなタイミングでやって来るあの日のヤツに似た黒い車。
そんなの、あの時の物としか思え無い。でも、今日はあめさんが居ない。それなのになんで…?
警戒体制で私は斜め後ろに止まった車を見詰めていた。
暗くて、車内の様子は窺えそうにない。何かあったらダッシュだよ、階段下りれば大通りなんだからと、私は緊張感から頭の中をパニックにさせないよう、自分に言い聞かせる。
あめさんの仲間だとしても、悪い人も居るかもしれない。気をつけるに越した事はない。
私の後ろで後部席のドアが開かれた。前から見ている私にとって、ドアと重なってしまう為、誰が降りてきたのかは目視できない。
でも、人が降りたのは確か。私の後ろに止まった車から、人が降り来た。その動作を確認した瞬間、私は急いで顔を逸らした。
あまり見過ぎてもおかしい。余計に注意を引いてしまう。
怖い人だったらどうしよう。