「じゃあ俺、帰る事にする」


立ち上がったあめさんを私は座ったまま見上げ、「気をつけて下さいね」と返した。話していた感じ、今日のあめさんはそんなにヘロヘロしていなかったからだ。やっぱりこの間の事を気にしてるのかな、謝りに来たくらいだし。

こんな所で寝ちゃうのは危ないから気をつけてくれるのは良い事だと思う。それに謝らなきゃならない事があるのはあめさんにとっても嫌だと思うし…ただ、ベロベロのあめさんはそれはそれで可愛いから、見れなくなるのは少し寂しいけれど。

もう少し甘えてくれてもいいのになぁ、なんて。

そんな事を少しだけ思ってしまったのが彼に伝わったのか。


「えー、送ってくれないの?」


こんなタイミングで、そう仔犬のような目で言われてしまったら私に断る術は無い。というかそもそも私が頼み事を断れる訳が無かった。


「どこまでですか?」


あっさりと、何の迷いも見せずに立ち上がったのは言うまでも無く、彼がタクシーに乗るまで付き合うのが私の役目になったのは、この日からだった。


初めの頃は下までついて来られる事すら拒んだのになぁと、出会った頃を懐かしむくらいに最近、親密度が増したような気がする。

だからこそあめさんが乗るタクシーに一緒に乗って帰ったりはしなかった。そこは違うと、自分で線を引いた。だって今の彼は酔っていて、本来は私に頼った事を後悔して謝りにくるような人なのだ。