そう言った彼は、とても曖昧な言葉とは裏腹に、口調はきっぱりとしていた。


「え?本当ですか?」


好きだと答えるだろうなって思ってた。大好きじゃなくても、どちらかと言えば好きかな?とか。でも、違うみたいだ。


「なんで?どうしてですか?」


いてもたってもいられない感覚。私はあめさんの次の言葉を待たずに、どんどん質問する。


「あめさんは自分をどう思ってるんですか?どうなりたいって思ってるんですか?」


そんな俄然生き生きとする私に、戸惑いを見せるあめさん。


「…そんなに聞かれても分かんないけど…俺だって嫌な事ぐらいあるよ。しかも腐るほど」

「え?」

「なんで俺ってこんななんだろう、とか常に思うし、毎日毎日くだらない事ばっかだし。やりたい事だって、いつの間にかやらなきゃなんない事に変わっちゃって、俺はこんな所に居るんだなぁって思うと虚しくなる」

「…そうなんだ」

「うん、そう。だからそろそろ俺自身もしっかりしなきゃいけねぇなとは思ってます」


うんうんと頷きながら、あめさんはやれやれと、溜息をついた。自分の現状を思い出してどっと疲れた…といった様子かなと思う。

自分の事を話すあめさんは初めてで、出会ってから初めて、ようやく彼の一部を見せて貰えた気がする。そしてそれは、私にとってはとても予想外なもので、


「なんか、人間くさいですね」


思わず、そんな言葉を口にしていた。綺麗で浮世離れした彼からの言葉と思えなかった、みたいな気持ちだったのがこんな言葉になるなんて、なんて事を言っているんだと自分に青褪めたけれど、彼は「だったら何に見えてたの?」と、怒った様子も無く、ただ呆れたように笑って返してくれて安心した。

人間くさいって、人間相手に変な話だけど、それが彼の魅力を更に引き立たせているのは事実だなと、笑う彼を見て納得した瞬間だった。