悪戯っ子のようにニヤッと笑って、彼は私に向かって手を伸ばした。
え、まさか、おっ、起き…!
「…いいじゃないですか。減るもんでも無いし」
まさか起きていたと思わなかった私は、内心大慌てな訳だけど、悔しいんだか恥ずかしいんだか分からない感情を隠す為に、何故か可愛くない事しか言え無かった。なんで?
そんな私の言葉に、あめさんはキョトンとした表情を見せた後、その瞳が徐々に細められたと思ったら、「減らなくても、貰えるもんは貰っとかないとね」と、なんだかとても楽しそうに笑って、ご機嫌な声色でそう言った。なんかもう、恥ずかしいし悔しい…っ、
「あめさん、がめつい」
「え、初耳」
「じゃあケチ、あめさんのケチ!」
半分ムキになって言う私を歯牙にもかけず、彼は「おや、ハルキ君。そんな君に一つ、教えてあげよう」なんて、ゴホンとわざとらしく咳ばらいをする。
いかにも大切な事を言います感に溢れているその様子に思わず笑ってしまいそうだった空気を飲み込んで、きちんと耳を傾けた。一体何を話すつもりなんだろう。とても興味がある。
「あのね?自分の一番近くにいるのは、やっぱり自分なんだよ」
「…近くですか」
「そう。分かんなくて嫌になっても、とことん嫌っても、結局最後まで面倒見てかなきゃなんないのも、見てくれるのも自分」
「…はい」
「好きでも嫌いでも、自分がどんな考えを持ってて、どこに価値を定めるかを一番理解しようと努力してるのも自分でしょ?」
「…はい」
「だから、それを受け止めなくちゃと思う」
そして、あめさんは言う。
「つまり、自分の安売りだけはしちゃいけないって事」