その後、「お疲れ様です」と、店を出たのは24時過ぎ。煙草を吸っている彼を見付けたのは、それから10分程歩いた後。場所は、いつもの階段…より少し手前で、俯き加減に通りを眺めていた彼は、なんだかいつもと違って見えた。なんだか雰囲気が尖っている…というか。
そんな彼に、先程のユイの言葉が頭を横切る。
"そいつ、怪し過ぎるじゃん”
…私は一体、どうすれば良いのだろう。
確かに私は彼を知らな過ぎる。今だって、こんな雰囲気の彼を見て気圧されている。…それなのに。
「…あ」
その瞳に私が映ると、今まで感じていた全てがどうでも良くなってしまう。彼が私を見付けた時に見せる一瞬の柔らかな笑顔が、私にそう思わせるのだ。
「ここに居れば来るかなって、思ったんだけど、」
と呟くように言い、今まで吸っていた煙草の火を消した彼は、再度、私に視線を送る。
「大当り」
とても綺麗に、妖艶に、ゆったりと口角を上げた。
…何かが可笑しい。違和感がある、というか違和感だらけだ。
始めに感じたあの尖った雰囲気。この、いつもは見せないような笑い方。
「あの…何かあったんですか?」
しかも私を待っていたなんて、こんなのは始めてだ。
「あぁ、何か…あったってゆーか」
「はい」
「お礼ってか、謝罪をね、しようと思って」