嫌がらせのつもりが、なんだか彼にはヒットした模様。「へー、雨ねぇ」なんて、ニヤニヤしながら呟いている。なんか思ったのと違う!
と、悔しく思ったその時だった。突然着信音が辺りに響き渡る。
確認しようとポケットに手を入れたけれど、目の前から「はい」と言う声がして、自分の物では無いと分かった。どうやら彼の方だったようなので、終わるのを待つ事数十秒。通話を切った彼は私に向き直り、
「残念。もう迎え来たわ、ほらあそこ」
そう指で示された先に目をやると…そこには、フルスモークの黒塗りの車。…あれ?やっぱり普通の人じゃない…?なんて冷や汗をかく私を尻目に、彼は「じゃあね」と一言だけ言って歩き出した。
「あ!ちょっと、お名前は!」
行ってしまう!と、私が焦って声を掛けると、「雨でいいよー」と、彼はこっちも見ないで呑気に返事をする。なんだかやられっぱなしで悔しい…!ちょっとびっくりさせてやりたい!
「言っておきますけどー!」
「?」
「雨さんの雨は、平仮名にしますからねー!」
「……はい?」
思わず振り返った彼にニヤっと憎たらしい笑みを見せつけ、私は何か言われる前に走って帰った。
これで空の雨か食べる飴か分かんないんだからね!なんて、こんな小さな反抗で、してやったり!とか思っちゃう自分に…とりあえず落ち込んだのは、秘密にしておこうと思う。