「そう、良かった。ハルキはしっかりしてるからね。でもやっぱり、あなたが離れていくのは淋しいものね」

「………」

「親の宿命ってヤツかしらねぇ」


――その言葉が、私の心に大きく響いた。


その後、電話を切ってから私は考えた。あめさんの事と私の事。私は、何が大事なのか。答えは――出た。


その日は、あめさんが出発する3日前。


「私は、ここに残ります」


決意と共に、あめさんに告げた。


「私には、やらなければならない事があるんです。母を安心させる事が私の目標であり、精一杯の返せる恩なんです。だからそれまでは、ここを離れられません」


私の言葉を黙って聞くあめさん。彼は今、何を思っているのだろう。


「それに、あめさんの傍に居る為にはそれが必要なんです。私が私に甘えない、沢山のものをくれたあめさんにちゃんと向き合えるような、そんな人に私はなりたい」

「……」

「私は――…私も、独り立ちします」


私も、私を誇れるように。私はこれだと、自信をもって言い張れるように。

自己満足で終わらない、本当の支えになれるように――


「…分かった」


ポツリと聞こえて来た言葉。あめさんは、笑っていた。


「分かったよ」


そして強く引かれる私の腕。そこはすっぽり収まる、私の場所。あめさんの鼓動が聞こえる。


「俺も、頑張るよ」


そう言ったあめさんの表情は見えなかった。でも、その声は何かを決意したような、そんな強さを秘めているように思えた。きっと、あめさんも沢山考えてくれてたのだろう。


「あめさん…」

「ん?」

「私、あめさんの事大好きですよ」


私がそう言うと、「え、何その告白?」なんてケラケラ笑う。


「俺のがハルキ大好き」


あぁ、キスだ。これが最後のキスだ。


近付く彼に目を閉じて、私はそう思った。