何をどう答えれば良いのかもよく分からないまま、恥ずかしさから私はとにかく後ろへ逃げようとしたけれど、スッと伸びて来た手に捕まれ、その場から動けなくなる。
「ん?何?」
そして変わらない笑顔で私に向かって尋ねる彼に、『ハッキリ答えてよ』という裏の声を察知した。
「いや、だからその、そんなの今更だと思うのですが…」
「今更?」
眉間に皺を寄せた彼は、「そんな事ない」と首を横に振る。
「やっとだ」
「…やっと?」
「やっと俺を見てくれた」
その言葉で思い出すのは、"オレの事見えてる?" と私に言った、あの時のあめさんの姿。
「ねぇハルキ」
彼は、優しげで芯の通った、意思を伝える声。
「俺はハルキの事だけを見る。だから――」
目の前には彼の吸い込まれそうな瞳。その瞳には今、私だけが映っている。
「ハルキも、俺だけを見て」