それから数日後のこと。
バイトを終えた私は、我が家へ続く慣れ親しんだ道をいつも通りに歩いていた。
あめさんは、バイト先に現れるようになってからというもの、あの頃よく見かけたあの階段にすっかり現れなくなった。
それが何を意味しているのかは分からない。でも、それでもそこを通る度、私の中に今日こそはと期待している自分と、居るはずがないと沈んだ気持ちになる自分が居る事は確かだった。
そして今日もまた、私はあの階段に差し掛かる。
これもまたいつも通り。私の視線は自然と宙を行き来して、あの、鮮やかで透き通る金色を捜してしまう――
「ハールキ」
「!」
し、心臓止まるかと思った!
勢い良く振り返ると、すぐ後ろにはにこやかに微笑むあめさんの姿が。
バクバクしている私の心臓なんて知りもせず、彼は「良かった〜間に合って」なんていつも通りの雰囲気で言った。ちなみに、このいつも通りというのはもちろん、酔いが回っている事を表している。
「あ、あめさん…久しぶりですよね」
「ん?久しぶり?」
「はい、ここで会うの」
「…あぁ、うん。そう、そうなんだ」
そう言うと、彼はうんうんと頷いて、一人納得した様子を見せる。そして私に座るよう促して、自分も段差に腰を下ろした。
「話がね、あるんだ」
「話?なんですか?」
「うん。独り立ちが決まった」
「はい?」
「独り立ちするんだ、俺もアイツも」