驚いて目を開いた彼女と近い距離で視線が合う。
「アサヒじゃない自分に意味が無い…」
私が呟いた声に微かに反応したのが分かった。物理的な距離が近づいただけで、相手との心の距離が近づいた訳ではない。でも、
「だったらなんで今、私はここでアサヒじゃないあなたと話しているんだろう」
近くで話しているだけで、より彼女に言葉が、気持ちが、届く気がする。
「今のあなたに意味が無いなんていうけれど、あなたが自分で区別をつけるまで、私にはどちらがあなたのいう意味の有る方なのか分かりませんでした」
戸惑いに揺れる彼女の瞳から、私は視線を逸らしたりしない。彼女が自分自身から目を逸らしてる分、私が見つけた彼女を伝えたい。
「だって、あなただってアサヒだから。私からしたらどちらも意味のあるアサヒさん、逆もあるというか…アサヒだからじゃなくて、私に会いに来てくれたあなたと話してる」
思いよ届けと、私は彼女の手を握る。
「私は今、あなたを知りたいと思って呼んだんです。だってあの時、あなたは悩んでて、助かりたいと思ってた。私はそれを知ってしまって、助けたいと思ってる。それじゃ、意味になりませんか?」
その時、彼女の瞳に何か違う意思が宿ったような気がした。それはきっと、ずっと奥の方に隠れていた彼女の気持ち。少しずつ表面に現れようとしている。
それでも彼女はまだ揺れていて、「でも…」と暗い顔のまま俯いてしまう。
それは彼女が抱く "アサヒ" への劣等感の大きさをそのまま表しているようで。
「アサヒさん、聞いて下さい」
「……」
「さっきアサヒじゃないあたしにはって、アサヒさん言ったじゃないですか。で、考えたんですけど、私って何もないんですよね」
「……え?」
「元から私には他に何も無いんで、何の意味も無いんですよ。だからもし仮にあなたがアサヒじゃないとしたら、残念ながら私とお揃いです」