「…なんで?」


アサヒさんは、顔を曇らせたまま。


「なんで…あたしの事なんて気にするの?」


彼女が小さく呟いたその声は刺を含んだものに聞こえた。それは、次に発せられた言葉によって間違いではなかったと証明される。


「どうせあたしが、"アサヒ" だからでしょ?」


吐き捨てるように言った彼女は、怒りでも悲しみでもない、どこか渇いたような淋しい瞳をしていた。


"あたしの事、知ってるんだ"


以前会った時、始めに彼女が言った台詞。


「アサヒを通してあたしを見てるクセに」


あの時の言葉の意味を、私はようやく理解した。


「そんな事ない。そんな訳ないです」

「嘘だ。文句を言う訳でもない。ユウの話をする訳でもない。だったら何?この間が初対面のあたしに何がしたい訳なの?意味が分からない」

「その、意味ってなると、私もよく分からないんですけど…やっぱり、あの日のあなたを見たら力になれないかと思ってしまって…どうしても放って置けなくて」

「知らない、そんなの信じられない」


アサヒさんは私の言葉を聞きたくないといったように首を横に振る。目を閉じ、耳を塞ぐように両手を沿えて、彼女は心を見えない所にしまい込むように身体を縮こませている。


「アサヒじゃないあたしになんて、何の意味も無いのに――」


その言葉が、どれだけ彼女の心に根をはっているのだろう。その事実が、どれだけ彼女を縛りつけてきたのだろう。


私は悲しくて、辛くて、思わず耳を塞ぐ彼女の両手に手を添えた。