「…え?でもアサヒは自分で全部作ってるって…」

「うん、そういう事になってる。その方がアーティストらしいだろ?」


戸惑う私に対して、彼はなんの問題も無いとでもいうようにサラッと言ってのけた。

しかし、この事実は、世の中を震撼させるくらい大きな問題だ。もし誰かに知られたら、確実に次の日の新聞の一面はこの話題となるだろう。

これは大袈裟ではない。なぜなら、アサヒという歌手は、美貌、歌声、作詞センス、作曲センス、全てを兼ね備えている人物として知れ渡っているし、それが彼女の最大の売りだからだ。

そして彼女がただの歌手でなく、国民的歌手と言っても過言でない今、その彼女の才能が実は嘘だったなんて――これは、間違いなく大変な事になる。


「…え、じゃあつまり、生まれ持った才能がどうとかっていうのは…全部、嘘?」

「そう。始めから今までずっと」

「なんで?なんでなんですか?」


思わず声を荒げてしまった。どうしてそんな嘘を始めてしまったのだと、今の彼女の立場や悩んでいる姿を思うと、批難する気持ちを隠しきれなかったが、あめさんは表情一つ変えない。


「ただ、アイツの手助けがしたかっただけなんだ」

「手助け…ですか?」

「それに面白そうだと思った。理由はたったのコレだけ」


そう言って、「そのくせ今になって昔に戻ろうとしてんだ。最悪だね、俺」と、あめさんは笑った。

あめさんの言う "昔”がどんなものか分からないけれど、それがきっとアサヒさんから離れるという事なのだろうと思う。


誰が悪いのかなんてものは分からない。きっとミトさんも本当はこの事実を知っているのだろう。


「……正直、そんなのって無いよって思いました」


でも、今のアサヒやあめさんの気持ちを知る私にとっては、そんな気持ちはどうでも良かった。