あめさんは、こちらへ駆け寄って来る。

近付くに連れてハッキリとする彼の表情は思いも寄らないもので、私は思わず、今流れた涙の存在を忘れてしまった。


「あめさ、」

「何してるの?」


掛けられた言葉は、その表情とまったく同じで…私を責める、強いもので。


「え…えっと、あの…」


怒ってる。あめさんが、怒っている。

私はその事実に怖気付いてしまう。


「あの、話し、が、」

「そうじゃなくて」


あめさんの否定の言葉に俯いた顔を上げてみるが、"そうじゃない"、そう言いながらも、瞳の鋭さは変わらない。


「…何しに来たとかじゃなくて、俺が言いたいのは……今、何時か分かってるのかって事」


時間…?あ…そっか、そうだ、今はもう夜中で…


「そ、そうですよねっ、すみません、こんな時間に来て…本当に迷惑ですよね。うわ、私そんな事も考えないで…」

「いや、だからそーじゃなくて」


もうここまで来ると怒りを通り越したらしい。
あめさんの表情は、すっかり呆れたかえったような表情に変わっていて、まだ訳の分かっていない私に向かって、「あのさ、ハルキ」と、ゆっくり、諭すようにあめさんは言葉をつなげる。


「一人でこんなとこ、危ないだろ」


そして伸ばされた彼の手が、私の頬に触れる。


「こんなに冷たくなって…いつから居たの?」


眉間に皺を寄せて言うあめさんに、私はまた涙が出そうになって、必死に堪えた。