昼間は学校がある為、来る事が出来ない。あめさんだって仕事が有るはずだから夜それは良しとして。
だから夜を狙う事にした。一度だけ連れて来てもらった時の朧げな記憶を頼りに来た訳だけど…そうだった。私、すっかり忘れていた。このマンションの入口、オートロックだった。
部屋の番号なんてすっかり忘れた私には、何の行動も起こし様が無い。部屋に居るのか居ないのか。それすら分からない。
……そして結局、ミトさんのお世話になる私。最悪だ。
恐る恐る電話をすると、4回目のコールぐらいでミトさんが出る。向こう側はなんだか騒がしかったけれど、飲みに行ってるのか、それともまだ仕事中なのか、私には判断する事が出来なかった。
とりあえず、どちらにしろ話を早く済ませないと失礼だと、私はあめさんがソコに居るのかどうかをまず尋ねてみた。
そして、今日話がしたくて来たのに…という今の現状も一緒に説明すると、やっぱり流石はミトさん。すぐに理解してくれた。
返って来た「あー、ハルキちゃん」という言葉の言い方は、なにやら雲行きの怪しさを私に感じさせる。
「アイツ、今帰った所だ。この時間だと何時になるか分かんないな…」
「アイツの行動パターンは読めないから」と、ミトさんは言う。
…うん、確かに。あのあめさんの事だ。フラフラどこかに寄って帰って来ても可笑しくない。残念だけど、「そうですか」と、答えるしかなかった。
あめさんに連絡してくれるとミトさんは言ってくれたけど、私はお礼を言って断った。
あめさんを急かすのも悪いし、ミトさんにこれ以上手を借りる訳にもいかない。
今日の所は引き上げるようミトさんに言われ、私はそれにしっかりと頷いて電話を切った。
しかし、私はこの場を動く事は無かった。
今日を逃してしまったら、きっともう私はここに来れない。ここへ来る度胸なんて、無くなってしまうだろうと、私には分かっていたから。