決して広くは無い店内では、入れ違う事も無くミトさんの元へと向かう事が出来る。幸い、店内が空いている為に人手は十分足りていて、すっかり仕事を放棄している私であったが、店長や他の従業員は気付かない振りをしてくれた。
よし、心置きなく話せるぞと、ひそかに気合いを入れ直した所で、私はそのままホールを突っ切り、奥にあるお手洗いへと続く暗い廊下の更に奥、行き止まりの壁に寄り掛かるように立っているミトさんを見つけた。
腕を組み、俯き加減に構えていた彼は、私の姿を確認すると、ニッコリと笑って見せる。
「ハルキちゃん、凄ぇあからさま。今頃アイツ、ヤバイぞー」
「?何がですか?」
「あれ、気付かなかった?」
「?」
「ならいいや。俺的には悪い気しないし」
「??」
一体全体何の話だと、私にはよく分からなかったけれど、ミトさんが胡散臭い笑顔を振り撒いてる時は教えて貰えないという事を、私はよく理解している。
「ま、それは置いといて」と、やはり読み通り、ミトさんは別の話を持ってきた。サッと笑顔が引いたそれは、きっと次に来るのが本題だという事だ。
何を言われるのだろう、と思わず身構える私に、彼は尋ねる。
「何を頼まれればいいのかな」
その一言で、今更ながらやっぱりこの人はすごいなと、改めて感嘆する。
お姫様の望んでる事も、私がしようとしてる事も、きっと彼は分かっているのだ。
「…アサヒに、会わせて下さい」