私は、走り去る車をじっと見送った。何かを考える訳でもなく、ただただ、それを眺めていた。
いつもはあめさんを乗せている車が、いつもと違う道へと消えていく。この様子を見届けたかったのかもしれない。
大切なお姫様を乗せた車がいつもと違うものに見えたのも、きっと私の願望だ。何よりの証拠になったあの車を、どうにか否定したいという、私の汚い願望が見せた幻だ。…私は、アサヒをどう思ったんだろう。
頭の中では今だに、「……お願い…」という弱々しい声が、涙を拭う事も無く私を見詰める瞳が、しっかりと残っている。一体、何が彼女をそうさせるのだろう。
そこへ辿り着いた瞬間、あぁ、もうダメだ。と、私は思った。きっともう、私は知らない振りが出来ない。
アサヒは何を抱えているのだろう。力に、なれないかな。
そう思う自分を、私は見て見ぬ振りが出来ない。…とにかく、何とかしなければ。
むやみな使命感にかられる私に与えられた次の行動は、最後に出て来たあの人にコンタクトを取る事だった。
ミトさん――彼は、何者なんだろう。アサヒのマネージャーでもしているのだろうか。だとしたら、なんであめさんをあんなに構うのか…
結局の所、謎は深まるばかりだ。ミトさんも…あめさんも。
あめさんを思い浮かべると、何故か嫌な気持ちになった。上手く説明は出来ない何か胸の奥に溜まって、気持ち悪い。鬱陶しさすらある。
ミトさんに会わなければとは思うけれど、今はあめさんとは会いたくない。アサヒに会った日からずっと、そんな気持ちを抱えていた。
その正しい答えが見つからないまま2日が経ち、シフト通りに私がバイトへと向かうと、やっぱりというべきか。そういう時に限って、バッチリ予約席が用意されていた。