目の前で涙を流す彼女から目が離せないまま、ただ立ち尽くしていた。
何を言えば良いのか、何をすれば良いのか、何も分からない。
頭が真っ白になった…というより、考えたく無いと、勝手に脳が動きを止めたのかもしれない。
「……お願い…あたしから、ユウを取らないで…」
真っ直ぐに私を見据えて、彼女は言う。しかしその瞬間、彼女はハッと我に返ったように大きな瞳を一際大きく見開き、苦しそうな、難しい表情へと綺麗な顔が歪められる。
「…ごめんなさい」
彼女は、小さく私に謝罪を寄越した。…もう何がなんだか分からない。なんで私は謝られてるの?もうこれ以上、分かりたくない。
と、調度その時だった。少し離れた位置で、クラクションが鳴ったのは。
自然と私は、音が聞こえて来た方へと目をやる。そのには見覚えのある車が一台、停まっていた。
こんなに暗くても、前より遠くに停まっていても、私にはそれがいつものものだという事が分かる。だってもう、すっかり見慣れてしまった。
私と同じく車に目を取られていた彼女は、「もう時間か…」と呟き、私へと向き直った。
「…言いたい事、沢山あるでしょ」
「…え?……あー…」
「?」
「…いや、なんていうか……まだ上手く整理出来てなくて…頭の中。どうなんでしょう…」
本当は頭の中が真っ白だし、軽くパニックの私がしどろもどろに答えると、彼女は困ったように笑って、「そう」と頷いた。
「何かあったらミトに言って。時間作るから。…でも、」
彼女は言葉を止めて、もう一度、困ったような表情で私に笑いかける。
「今日の事、忘れても良いから」