「話がしたいの」


そう言ったのは、彼女だった。


「え、は、話って…私とですか?」


もちろん、私しか居ないこの場所でそれは私を表している事くらい分かったけれど、お互い初対面とかいうよりも前に、相手は天下のアサヒ。あのアサヒ。

まず、こんな所でお目にかかれるような人では無いし、私の今後も人生においても出会う可能性なんて限りなくゼロだ。何かの間違いであっても可笑しくはない。いや、何かの間違いだ。


「そう。ずっと話がしたかったんだけど、やっと連れてきて貰えたから」

「…あの、それは…その……どういう意味ですか?」


当然、私の口からその言葉は出た。思わず口をついたその質問に、彼女は怪訝そうに首を傾げる。

「どういう意味?」と、私の言葉を繰り返し呟く彼女を様子を見て、私もあれ?と思った。


「あ、いや、どういう意味っていうかその…どういうつもりなんだろう、というか…」

「……」

「あ!違います違いますっ、そうじゃなくて、そういう意味じゃなくて、あの、なんてゆうか…なんで私なんだろう?って」

「?」

「つまり、なんで私の事を知ってるんだろう!って事なんです」


当たり前の事を当たり前に言っただけである。こんなにやり取りを使ってまで言う事では無かったなと自分でもビックリして、彼女のご機嫌を窺った。


「…?」


何故か、彼女はより一層謎が深まったとでも言いたそうな表情で私を見ていた。