「結局さ、俺は逃げる口実を探してたんだと思う」
何も言えずに俯く私に向かって、私の気持ちを察しているのかは分からないけれど、あめさんは口を開く。
「アイツから…てゆーか自分から逃げる為に、ハルキを利用してた。自分の都合が良いようにハルキを作り上げて、それを理由にしてたんだ。…でも、現実を知って」
「?」
「俺の為じゃないって、ハルキの目に入ってるのは俺だけじゃないっていう現実を、ちゃんと知った。必要なのは俺じゃなかった」
「……それって、もしかしてあの…」
「……」
「あの日の事ですか…?」
ーーあの日、それは私が他の人を家まで送った日の事。
その日、私はあめさんと会っていない。でもその後、最後に会ったあめさんは変わりが他にも居るだろうと、言っていた。
今思えばまるで、前日の私が何をしていたのかを知っているような言い様だ。現実を知ったというのは、つまりあめさんはあの時の私を見たという事?
あの日、別の人と歩く私を見て…あめさんはあんな事を言い出した?
「…相手してくれるハルキに甘えてたんだ、俺」
「……」
「ごめんね、悪かった」
「謝られるような事…何もありません」
私がそう答えると、あめさんはまた笑う。その笑顔はどこか痛々しくて、そんなあめさんになんて声をかけようかと考え始めたその時、あめさんからの言葉があった。
「でも俺、そのおかげで気付いたんだ」
「?」
「中途半端な自分に。俺は逃げてばっかで、何も出来て無かった」
「中途、半端…ですか」
「そう。自分の事も、アイツの事も、決着つかないままでいた。そのままにしてハルキの所に逃げてたんだ。それが結局、アイツを泣かせる事になった。…だから、俺は決めた」