「放っておけない…奴?」
驚きと困惑で思わず聞き返す私に、あめさんは「うん」と、小さくに頷いた。
「コイツが独り立ち出来るまで俺も一緒に生きてこうって、手を貸そうって決めた奴がいるんだ」
真剣な面持ちで、そう語るあめさん。その言葉に、私はなんだか嫌な予感を感じる。
…嫌な予感?いや、その表現では、なんだかしっくりこないような…なんだろう、でも確かに私はこの時何かを感じたんだ。
「そうやって過ごしてきたここ数年、今でも俺はそいつの所に居る…けど、」
「?」
「そろそろその時が来たんじゃないかって、思う」
「…その時って?」
「一人になる時。もうアイツはすっかり独り立ち出来てるから」
あめさんは、そう言って笑った。笑った…けど、その笑顔が、私には嘲笑のように見えた。
何故だかなんて分からない。その表情が表す裏の気持ちを私は知らない。でも、そんな顔をして笑っている自分に、あめさんは気付いているのだろうか。
「俺さ、アイツに会う前までずっと自分の思うように生きて来たんだ。だからアイツの力になるって決めたのだって、ただ単に気が向いたからってだけだったし、ただの俺の通過点だった。だからまた戻る事は始めから決めてた事だった」
そのあめさんからは先程の笑顔は消え、今見られるのは眉間が寄った思い悩むような表情。
「でも。今俺には、抵抗がある。自分の生き方に戻る…不安がある」
「……」
「アイツとして過ごしてきた中で、今更自分に戻れるのかって言われたら…凄ぇ不安で。俺は俺になれるのかって。アイツの一部じゃない、俺自身になれるのかって」
そして、「これじゃあどっちが助けられてんだか」と続けるあめさん。
その言葉の意味が、私には痛いほど理解出来た。だからあめさんは言ったんだ、私なら分かるって。
状況は違うかもしれないけれど、きっと私達が感じてる物は同じだ。