「母に似ている私、それが私のアイデンティティ。だから私は放って置けないんです。目の前に居るのに無視する事は、私自身を否定する事になる。人助けする私が私、そうでありたい。そうでなきゃならない」
本音と建前。困ってる人を放って置けないというのは建前でもあり、本音でもある。放って置けないから、放って置かない。見て見ぬ振りは出来ない。
「だから、人助けは私の為。人の為だなんて言いながら、全ては私の為なんです。だから、私から人助けは切っても切れないもの」
私はいつも、私の事しか考えられない。私は私の為にしか生きられない。
「つまり、きっかけは私の為、という事です」
それが答えだと、私は黙り込んだ。
もう言う事は何も無い。私は、私の全てを話した。私を作り上げた、私の根っこの部分を全て、今あめさんに明かしたのだ。
あめさんは黙りこんでいて、私たちの前に静寂が横たわる。
明かりの付いたマンションの一室で、人が二人、向かい合って座っている。それにも関わらず、この場には誰も居ないんじゃないかと、そう思わせるくらいの静けさが続いた。
なんであめさんは、こんな事聞いたんだろう。一体何のつもりだったんだろう。
きっとこんな返事が返ってくるとは思わなかったはずだろうし、あめさんは今、戸惑っているのかもしれない。どんな反応をすればいいのか迷っているのかも。
まさかこんな生い立ちから始まるなんて思ってもみなかっただろうし、いきなりこんな事を聞かされても…うん、困るだろうな。
悪い事しちゃったかな。とりあえず謝ろうと口を開いた、その時。
「そっか、そう言う事か」
小さく呟く彼の声が耳に入り、私は慌てて口を閉じる。