そんな事を考えながら言ってしまった自分の醜さに愕然とし、そのせいで頭に血が上る。
 恥ずかしさと、惨めさと――彼女を嫌いだと思う感情が、私からストッパーを無くした。
「別に、文章なんて書かなくても平気じゃん。他の事やりなよ。全然書けないなら、才能ないんだよきっと」
 明確に彼女を攻撃したくて、私は、私の嫌な自分になっていく。
 彼女の才能を目の当たりにしても嫉妬して嫌味しか言えない自分が嫌で、でも止め方が分からなくて私は続ける。
「こんな事してないでさ」
 ――文章を書く事を馬鹿にして、何になるの? 私を責める声が、私の中で響いている。
 私は、書く事が好きなのに。ずっと読むだけじゃ嫌で、書いてみたいって思っていたのに。
 こんな事しても意味がないって自分に言い聞かせて、普通になる努力をしていたのは私の方なのに。
 どうして、私は『こんな事』をしているの。
 どうして、才能があるのに才能ないなんて言えるの。
「パパ活とかしてないで、友達とか作ったら?」
 言った瞬間、彼女が言葉をなくすのが分かった。
 言ってやった、という爽快感を感じた直後、取り返しのつかない事を言った罪悪感が私を襲った。
 喉の奥に物が詰まったような苦しさがある。
 嫌な自分に成り下がったと気づいた時には、もう遅かった。
 言った言葉は、取り消せないんだ。
「……私の事、嫌いなの?」
 一ノ瀬ひなは、不意に言った。
「なら安心して。私も、貴女が嫌いだから」
 突然の反撃に私は、言葉を失った。
 何も、言えなかった。
 嫌われるような事をしたはずなのに、嫌われる理由がないと思って狼狽えて、そんな私に彼女は畳み掛ける。
「私が欲しい物を、全部持ってる。だから、貴女が嫌い」
「うそ。私、何も持ってない」
「普通の家が、あるじゃん」
 初めて、一ノ瀬ひなの声が震えた。
 彼女が白くなるほど手のひらを握りしめて、私を睨んでいる。
「お弁当持って来て、食べてる。制服はクリーニングに出されてるし、いつも新作コスメ持ってる。本も買ってるし、靴下も穴空いてない」
 立て続けに言われて、私は混乱した。
「それって、普通でしょ?」
「普通じゃないよ。少なくとも、私は持ってない」
 ――お弁当も。制服のクリーニングも。新作コスメも、本も、靴下も。
「……ずっと見てたの?」