もし賞を取ったら、同じようにクラスで発表される。その時に、友達にどんな目で見られるか分からなくて怖かった。
文学少女だ、なんて揶揄されるのが嫌だった。
そして、落ちるのが怖かった。
誰かより下の順位を中途半端に取るのが怖かった。
たくさんの『怖い』が、憧れを押しつぶした。だから私は、出す前に諦めた。なのに彼女は出していたんだ。
出して、結果を残したんだ。
「優秀者の作品は図書室に置かれるので、みんなも良く読むように」
教室のざわめきは、しばらく続いていた。
でも先生が授業を始めるといつものように静まり返って、私たちは授業の最初にあった発表を忘れていく。
『私たち』は忘れたのに、『私』だけは忘れられなかった。
放課後は、友達との約束があった。
だから翌日私はいつもよりも早くに家を出て、図書室へ向かった。
目的はもちろん、高校生創作文芸コンクールで優秀賞をを取った一ノ瀬ひなの書いた小説だ。
朝早くの廊下は静まり返っていて、校庭から聞こえる部活の音がやけに大きく響いて感じられた。
誰かに見つかりたくないと思いながら、カバンを持ったまま図書室へ向かう。
幸い、早すぎる朝には誰の姿もなかった。
高校生創作文芸コンクールの冊子は、入り口近くの棚に飾られていた。
急いでそれを掴み、図書室の一番端の誰からも見つからなそうな場所へと向かう。
棚と棚の隙間。マイナーな本しかない棚の影に隠れて、私は冊子を開く。
一行読んで、私はすぐに後悔した。
こんな文章を書ける人がいるんだ、って思い知らされたから。
まるで、砂のような文章だった。さらさらとした、手の汗に張り付かないような白い砂。
それでいて彼女は、叫んでいた。
寂しさや苦しみなんてチープな言葉の似合わない叫び。気高い慟哭だ。
生々しかった。
悍ましかった。
そして、美しかった。
形容する言葉を持たない自分が愚かで、矮小な存在になったように感じられて、私は呻き声を上げそうになる。
こんな文章を書ける人が、近くにいる事が信じられなかった。
そこにいると、感じられる質量を持った文章が一行ごとに私を抉り打ちのめす。
一ノ瀬ひな。
彼女が憎かった。
そうだ、これは憎しみなんだと、私は今気づく。
圧倒的な才能。それを彼女は手にしている。
文学少女だ、なんて揶揄されるのが嫌だった。
そして、落ちるのが怖かった。
誰かより下の順位を中途半端に取るのが怖かった。
たくさんの『怖い』が、憧れを押しつぶした。だから私は、出す前に諦めた。なのに彼女は出していたんだ。
出して、結果を残したんだ。
「優秀者の作品は図書室に置かれるので、みんなも良く読むように」
教室のざわめきは、しばらく続いていた。
でも先生が授業を始めるといつものように静まり返って、私たちは授業の最初にあった発表を忘れていく。
『私たち』は忘れたのに、『私』だけは忘れられなかった。
放課後は、友達との約束があった。
だから翌日私はいつもよりも早くに家を出て、図書室へ向かった。
目的はもちろん、高校生創作文芸コンクールで優秀賞をを取った一ノ瀬ひなの書いた小説だ。
朝早くの廊下は静まり返っていて、校庭から聞こえる部活の音がやけに大きく響いて感じられた。
誰かに見つかりたくないと思いながら、カバンを持ったまま図書室へ向かう。
幸い、早すぎる朝には誰の姿もなかった。
高校生創作文芸コンクールの冊子は、入り口近くの棚に飾られていた。
急いでそれを掴み、図書室の一番端の誰からも見つからなそうな場所へと向かう。
棚と棚の隙間。マイナーな本しかない棚の影に隠れて、私は冊子を開く。
一行読んで、私はすぐに後悔した。
こんな文章を書ける人がいるんだ、って思い知らされたから。
まるで、砂のような文章だった。さらさらとした、手の汗に張り付かないような白い砂。
それでいて彼女は、叫んでいた。
寂しさや苦しみなんてチープな言葉の似合わない叫び。気高い慟哭だ。
生々しかった。
悍ましかった。
そして、美しかった。
形容する言葉を持たない自分が愚かで、矮小な存在になったように感じられて、私は呻き声を上げそうになる。
こんな文章を書ける人が、近くにいる事が信じられなかった。
そこにいると、感じられる質量を持った文章が一行ごとに私を抉り打ちのめす。
一ノ瀬ひな。
彼女が憎かった。
そうだ、これは憎しみなんだと、私は今気づく。
圧倒的な才能。それを彼女は手にしている。