店に向かうまでの間で、今日は二千円買えば貰えるノベルティ目当てに来ていたと知った。
 二千円。正直、痛い出費だけれど、『お揃い』を手に入れる為には、安くない。
 私がこれから買うのは、友情だ。
 私が学校でいる場所を買う為の、二千円だった。

「次カラオケ行く時絶対一緒に着よ」
「着る着る! 着る時絶対教えてー」
 ――お揃いのパーカーを買って、お揃いのノベルティも買えた私たちは今、お昼をどこで食べようかなんて言いながら道を歩いていた。
 渋谷には、私たちと似たような女の子たちがいる。
 みんな、おしゃれをして、どこで食べる、なんて会話をしている。
 雑踏に溶け込んで、私はみぃとカフェを探す。不意に、隣を歩く彼女が足を止めた。
「え、嘘。一ノ瀬じゃん」
 シャッターの音がする。
 みぃがスマホを構えているのが見えて、彼女が何かを撮ったと気がついたのは、その直後だ。
「何撮ったの?」
「パパ活現場」
 そう言う彼女の視線の先には、二人の男女が歩く姿があった。
 隣にいる男性は、二十代後半ぐらいだろうか。ごく凡庸な男の姿よりも、隣の女の姿の方が気になった。
 一ノ瀬ひなだ。
 でも、教室での姿とはまるで違う。
 みぃがパパ活現場、と言いたくなるぐらい、一ノ瀬ひなは女で、そして隣にいる人は男だった。
 男の人は、クラスで見る男子とも違う。
 そして一ノ瀬ひなも、カーストの外側にいる地味で孤独な彼女とも違う。
 制服を着ている間はただ地味に見える彼女の短い黒い髪。それが、今では誰よりも『女』らしく見える。
 甘えるような眼差しも、薄くリップを引いた唇も、どれもが恐ろしく女性的だ。
 ただ着ている服が違うだけなのに、ショートパンツから伸びた足も、肩を柔らかく見せる白いトップスも、やけに扇情的に見えるのはどうしてだろう。
「え、これほんとにパパ活?」
 みぃの冗談を受け流せずに言った途端、口の中が苦くなった。
 ――こんなの、陰口だ。
 でも一度出た言葉は、誰も訂正なんて出来ない。
「どう見てもそうじゃない?」
 どこか、小馬鹿にしたような声だった。陰口が、正解だったんだ。
「一ノ瀬さんって、そういう人だったんだね……」
「紬には、刺激強すぎた?」
「誰にだってそうだよ」
「だよね」
 ――だよね、は共犯になる言葉だ。
 私たち、同意見ですよね。一緒に彼女を見た共犯者だよね。