苦しみの底から生まれた言葉

――それは、呪いという名の祝福だ。

「いいなー。ジルの新作ほしー」
 お昼休み。お母さんの作ってくれたお弁当を教室で食べながら、私は友人の言葉に頷いていた。
「私もー。バイト増やさなきゃ」
 自分の気持ちとは別に、すらすらとそんな言葉が出てくる。
 欲しいコスメの話。好きな曲の話。
 本当はコスメにかけるお金で本を買いたい。そんな本音は当然、言えない。
 せっかく上位グループに入れたんだから。
 私の今いるグループは、上から二番目ぐらいだった。
 クラスで何かを決める時トップにいるわけでもないし、かといって下の方でもない。
 中学の頃は、中の下ぐらいだった。だから、高校に入ってから頑張った方だと思う。
 頑張って私は『ちょっといい普通』になっている。
 普通にバイトして、普通の遊んで、普通におしゃれに興味がある、普通の女子高生。
 でも本当はよく分かってない。普通って何なのか。
 普通じゃない人の事は、分かるのに。
 ――一ノ瀬ひな。
 私たちのクラスにいる、たった一人カーストの外側にいる生徒。
 あそこには、行きたくない。
 カーストの最下層とも違う、男子と仲いいわけでもない、どこにもいない女の子。
 あそこは暗くて寒い所。私には、耐えられない。きっと。
「――よね。ねえ紬もそう思わない?」
 紬――つむぎ。自分の名前だ。
 慌てて私は、曖昧な笑顔を浮かべた。
「うん、だよね」
「やっぱそう? じゃあ紬、一緒に買いに行こうよー。土曜暇?」
 土曜日。いつもなら、一人で図書館に入り浸っている曜日だ。
 毎日放課後は、みんなで遊んでいるから、土日だけが自由になれる時間だった。
 だからそんな自由な日には、本を読んで――たまに、自分でも書いてみて。
 誰にも言えない、私の内緒の趣味。それをするのが、土曜日だった。
 でもそんな寂しい事、言えるわけない。
「ひまひま! 誘ってくれてありがとー」
「じゃー駅待ち合わせしよ!」
「楽しみー!」
 何を買いに行くのかも分からないまま、友達と待ち合わせを決めて、予定をスケジュールに入れる。
 土曜日。みぃと渋谷。モアイ像前に十時。
 何を買うのかは分からない。でも、なるべく高いものじゃないといいなと私は思っていた。

 約束の土曜日、みぃが向かったのは109だった。
「まだあるかなー、ノベルティのミニポーチ」