「雪弥君、失礼だと思わないかね。彼、こういうところがあるから、彼女の一人もできないと思うんだ」
『あっ、そうか例の研修の新人がそこにいんのか! てんめええええええ隣の新人になんてこと言ってくれちゃってんだ!』
「事実を」
『凛々しい声で断言すんな! 耳がぞわっぞわするわ! くっそ、業務連絡一つでストレスたまる!』

 気のせいか、向こうから『先輩落ち着いて』と、あのワンコ刑事の声が聞こえた。

『ああもうっ、とにかくだな! テメェの方が誰よりも見付けられるだろ』
「何を?」
『強盗の逃走者は車が一台と、二人乗りしたバイクが一台。ほとんどが二十代だったらしい』
「はぁ。僕は加勢するなんて一言も」

 言い掛けて、不意に宮橋が言葉を切る。

 しばし、考えるような間が空いた。雪弥が見守っていると、宙を見やりつつも前の車を二台追い越した宮橋が、ふっとこう呟く。

「ああ、なるほど。なんて悪運が強いんだろうね、三鬼は。それは〝僕からが通過するところ〟か」