「ははは、かなりキているみたいだねえ、藤堂君。少し休んだ方がいいんじゃないのかい?」

 ぽんっと肩に手を置かれた藤堂が、ひゅっと息を吸い込んで飛び上がって「ぎゃあッ」と悲鳴を上げて反射的に振り返る。そこにいたのは爽やかな笑顔を浮かべた宮橋で、小楠と三鬼も両目を見開いて彼を見つめる。

 藤堂が「心臓に悪いッ」と、唇にまだその余韻を残しながらこう続けた。

「というか宮橋さんッ、いついらっしゃったんですか!」
「うん? 今さっきだよ」

 宮橋は、当たり前だろうと言わんばかりに答えた直後、君は馬鹿かという表情をした。ようやくそこで、他の捜査員らも宮橋の存在に気づいた様子で目を向けて、どこからか「いつ戻ってきたんですか」と同じような質問が飛ぶ。

 捜査本部の拠点となっているこの大部屋に入るには、大きく開かれた正面扉から入って来るしかない。だから、彼が来た事に誰一人気付かないなんて、本来であればありえない状況だったのだ。彼が声を上げるまで、まるで気配はなかった。