ジャケットのポケットから、去年買い変えたばかりの桃色の携帯電話を取り出してみた。画面をチェックすると、画面表示時刻は三時三十二分を指していた。

「考えたら、事件が経って丸一日も経っていないのよねぇ……みんな忙しくしているのに、こうしてただ座っているだけの私って、無力だわ」

 携帯電話をポケットへと戻しながら、しみじみと呟いて頭上を仰いだ。県立図書館の屋上から伸びた屋根の向こうで、広がった青空に綿菓子のように浮かんだ小さな雲が、緩やかに流れているのが見えた。

 缶ジュースを飲み干しても、館内から宮橋が出てくる様子はなかった。もう何度目かわからない動作の繰り返しのように、着信も入っていない携帯電話をチェックした際、その表示時刻がようやく午後の四時半を過ぎた頃、彼が建物の入り口に現れた。

 宮橋は、待たせた詫びの一言もなく、「行くぞ」と言って目の前を通り過ぎていった。真由が慌ててあとを追うと、振り返らないままこう言った。