「うっうっ。私だって、いい歳でゲロゲロしたくなかったのよ」

 誰に言うわけでもなく口にして、真由は再び缶ジュースを口許に運んだ。酒は強い方だったので、二日酔いで吐いた事もなく、胃酸のすっぱ苦さを唇いっぱいに感じた事は、しばらくは忘れられそうにない。

 宮橋はこちらを心配するどころか、眉を寄せて「だらしないな、君は外で水分でも補給してろ」と言った。そして、一体何を調べたいのかは分らないが、早足に図書館の中へと入って行ってしまったのだ。

 車内で削られた体力と精神力に加え、この容赦のない蒸し暑さはたまらない。

 ベンチの上でだらしなく座ったまま、そう思って溜息をついた時、ふと、自然と足が広がっている事に気付いて姿勢を正し、のろのろとスカートの裾を伸ばした。普段はズボンで過ごしているため、少し気を抜くといつもこうだ。

 ジュースを飲むついでに、真由はもう一つ仕事があってここで待機していた。館内では携帯電話の使用が禁止されているため、宮橋から「何かあれば君が取れ」と指示されていたのだ。