すると、宮橋が冷静にブレーキを踏んで減速した。そのままトラックから距離を離し、内側の第一車線へと車を入れる。トラックは、先程までスポーツカーが走っていた第二車線を、何事もなかったかのように走行し始めていた。

「なんか、危なかったですね……。このまま事故ってたら、冗談で笑えなかったですよ」
「そうだな」

 宮橋はそっけなく答えた。一度サイドミラーを素早く確認すると、「県立図書館へ向かおうか」と告げて、アクセルを強く踏み込んだ。

             ◆◆◆

 午後の三時を過ぎた頃、真由は県立図書館の入口にあるベンチに、ぐったりと座り込んでいた。手に持っているのは、先程自分で購入した缶ジュースである。

 結局あの後、宮橋は都内をぐるぐる回るように無謀で意味のない運転を続け、先程ようやく県立図書館に到着したのだ。二度も県立図書館の前を過ぎた時、真由は「ああ、図書館がッ」と悲鳴を上げてしまった。

 あの時、そのまま県立図書館入っていれば、車酔いはここまでひどくならなかったと思うのだ。生まれて二十六年、高校時代に修学旅行で乗った船で酔って吐いた以来の醜態を、真由は先程、県立図書館のトイレでしでかしていた。トイレの個室から出た際に、手を洗っていた女性と鏡越しに目が合って思い切り反らされた。