車は住宅街を抜けて大通りに出た。左に折れて進み出したスポーツカーが、赤信号で止まった際に、宮橋が自然な動きで左腕にはめている腕時計を見やった。

 太陽の光で、宝石がはまった金の時計が反射した。真由は小楠が『宮橋財閥の次男』と語っていた事と、彼がお金持ちであった事を思い出した。初めて乗車した時は抵抗があったのに、自分がすっかりこのスポーツカーにも慣れてしまっていると気付いた。

 学生時代、よく高級車に出迎えられていた父を見て、かっこいいなあと思いつつも、自分には到底似合わないだろうなぁと感じていた。何せドレスを着ると歩き方は不自然になるし、テーブルマナーもてんで駄目である。

「ふむ、二時半を回るな。学校が終わるのはいつだ?」
「へ? あ、三時くらいだったと思いますけど」

 唐突に問われた真由は、藤堂から借りた手帳の内容を思い返してそう言った。宮橋は青信号になった通りを比較的緩やかに進み、左手をハンドルに置いたまま右手を顎にやる。