「突然発進しないでくださいよッ」

 彼女は、高速で口の中の物を噛み砕して訴えた。悲しい事に、彼が運転することへの恐怖が、すっかり身に染みてしまっているのを感じた。非常時への備えが反射的に行えるようになった自分が、なんだか虚しい。

「君は、さっきから何をぶつぶつ言っているんだ? 聞き込み調査だと言っただろう。菓子を食べるのが目的ではないんだぞ」

 ごもっともですが、お菓子を買っていたのは宮橋さんの方……

 真由はその文句を、結局は腹に収めて溜息だけをこぼした。車は意外にも、快適に滑るようにして道を進んで安全だったからだ。

 第一事件現場である例の公園の前を通り過ぎた際、真由は首を伸ばして、右側の車窓から通り過ぎるその風景に目を凝らした。黄色いテープで封鎖された公園の奥には、鑑識や制服の有無がある捜査員が数人いたが、あっという間に通り過ぎてよくは見えなかった。

「まだ調査しているんですね」
「今朝に始まったばかりだからね、当然だろうさ」

 視線も向けずに宮橋が言った。