宮橋の何気ないその言葉を聞いた瞬間、真由は飲み込みかけたチョコレート味を噴き出しそうになった。慌ててそれをどうにか喉の奥に流し込み、信じられない思いで彼を振り返る。

「子供の頃、食べた事ないんですか? 一度も!?」
「ん? 何を驚いているんだ。なんだ、子供時代には皆食べている物なのか?」

 宮橋は、本心からそれを疑っているような顔をした。真由は説明するのも面倒になって「別に」と言葉を濁し、お菓子を食べる事に専念する。

 信じられない。一体どういう生活をしていたのか、すごく気になるところだ。

 強い疑問がわき起こったが、仕事とは関係ないとそれを振り払って冷静になる事を努めた。そんな事を次から次へと聞いたら、質問は無しだとか指示には従えと言って『条件』を突き出していた彼に、今度こそクビを宣言されそうな気もする。

 大口で駄菓子を平らげた宮橋が、前触れもなく車を滑らせた。真由は慌ててお菓子を口に詰め込み、シートベルトを引っ張った。