「私、これ知ってますよ。美味しいのだって分かってます。学生時代は、よくお世話になりましたからね」
「なら、喜んで有り難く食べるがいい」

 宮橋はそう続けると、袋を開けてチョコバーを一口かじった。真由は呆れながらも、「今の私に糖分は必要だ」と判断して袋を開けた。

 久しぶりに食べたその駄菓子は、少し前に両親のもとへ里帰りした時に食べた味そのままだった。どうしてあのチョコバーが、都会の一角にある両親の家にあったのかは知らないが、「好きだっただろう」と父に言われて、嬉しかった事は覚えている。

 ああ、そう言えば父さんに会ったのって、もう去年の話だったけ……真由はしみじみと思った。就職してからというもの、忙しい父とはなかなか時間が合わないでいる。

「宮橋さんって、甘い物とか好きなんですか?」
「いや? とくに決まってないな。食べたい時に食べるだけさ。僕は、二十二歳の時に初めて駄菓子という物を食べてね。世の中に、こんなに美味くて安いお菓子もあるのかと感動したよ」