『でも警部』

 小楠は、呼びかけられた声に、現実へと思考が引き戻された。記憶の残像を頭から振り払い、「なんだ」とぶっきらぼうに問う。

『返り血を浴びたまま、被害者の身体の一部を持って店内を徘徊するなんて無理ですよ。防犯カメラにも、何も映っちゃいなかった。宮橋は、殺人は続くって言ってました』

 話を続ける三鬼に、小楠は咳払いを一つして気丈な声を繕った。

「先程、被害者生徒たちがつるんでいたメンバーの数と身元が分かった。人数は八人。彼らは中学時代から、恐喝の対象にしている特定の生徒がいて、今、同じ高校に通っている事も分かっている。その生徒と、不良メンバーの五人を探し出して事情聴取するつもりだ。お前と藤堂にも、その件に当たってもらう」
『分かりました。あいつに頼まれているので、生徒の名前を送ってもらってもいいですか?』
「ああ、高島の方から送らせる。宮橋にも、絶対に単独行動はするなと伝えておけ、一旦戻って来るように伝えるんだ。いいか、今回はお前たちと四人で行動してもらう」

 小楠は、三鬼からの返事は待たなかった。携帯電話をしまってざっと辺りを見回すと、ノートパソコンにかじりついているであろう高島の姿を探した。