早速お仕事だとはりきっていた彼女は、期待はずれの小楠の指令を聞いて、薄化粧の顔を怪訝そうに歪めた。この署内でも、小楠にそんな態度を取れる女は珍しい。

 小楠は父親と友人関係にあり、真由は幼心ついたときから、父と同様に凶悪面をしたその顔を見慣れているせいだ。学生当時、彼女は彼のことを「オグシのおじちゃん」と呼んでいた。

 せっかく捜査一課の異動を喜んでいた真由は、聞いたこともない係りに自分が回されることについて、抗議することにした。

「待ってください。えぇっと、その、Lなんとやら……――」
「L事件特別捜査係」

 小楠が凶悪面を顰めたまま、けれど的確に補足する。

「そうそう、それ、聞いた事もない係りなんですけど?」
「うむ、ウチの捜査一課独自のものでな……――いくつか他県にも、同じ類の事件を扱う部署はあるが」

 小楠は『独自』を強調しつつ語尾を濁した。彼は顔の皺を更に深くして、疲れたようにふうっと息を吐き出し、それから机の上で手を組んだ。