難しい顔をしたまま、彼がシートに身を預けた。思案に耽る顔で、ポケットからガラスの何かを取り出して右手で転がす。

 その様子をしばらく見つめていた真由は、それがガラス細工のチェス駒である事に気付いた。先程、署にある彼の机でも、灰皿のような形をした駒を見たが、これは馬の形をしている。

「それ、チェスの駒ですよね? 好きなんですか?」
「ああ。部屋には、僕専用のやつが置いてある。見ていると落ちつくんだ」

 すぐに会話は途切れた。

 時間がないと言う割にすぐ動く様子がなくて、真由はそわそわと落ち着かなくなった。直前に叱られたみたいな雰囲気もあったせいか、ピリピリとした空気が続いているような気がして、払拭するように「あの」と声を出していた。

「これから、どうするんですか……?」
「僕が考える。今まさに考えているんだ。……手帳を貸してくれ」

 目を向けないまま左手を差し出され、真由はしまっていた手帳を慌てて取り出した。