「どうした。変な顔をしているぞ」
「……いや、別になんでもありません」

 真由は、近い距離であると、恋に憧れがなくとも目が吸い寄せられてしまうくらい、美麗な橋宮からぎこちなく視線をそらした。咳払いを一つすると、運転席へと背を戻した彼に言う。

「電話でのお話からすると、やっぱり怨恨の線が強いんですかね?」
「事態は、もっとややこしい」

 橋宮はそう唇を尖らせると、ニュース番組を元のカーナビに切り替えて、愚痴のように続ける。

「署に駆けこんでくれたら、話は早いんだがなぁ。いつも一緒につるんでいるメンバーが、立て続けに死んでいて、自分たちが狙われている可能性を考えたりはしないのか?」

 その口調には苛立ちが含まれていて、真由は返答に困った。

 手帳をジャケットの外ポケットに入れ、カラオケ店の周りを固める警察官たちの方へ視線を逃がした。日陰になっているものの、夏の熱気に当てられているせいで、びしっと着込んだ制服の間から汗を覗かせている。