「え? 何係りですって?」
「L事件特別捜査係、ロスト・レポートのLだ。先程にも説明したように、少々こみあった特殊なタイプの物や、難解事件に取り組んでもらっている」
「はあ……。あの、それで、私がそこに配属されるわけですか?」
「そうだ。君にやってもらいたい」

 防音設備が完全ではない小さな室内で、橋端真由は小楠警部と向かい合っていた。

 主に凶悪殺人や組織密売などに長年携わっていた小楠は、大柄で威圧感のある男だ。深い皺の刻まれた小麦色の顔には、彼の激動の刑事生活を物語るようないくつもの傷跡が残っている。

 一番に目立つのは、左目下から外側へ向くように入った、大きな切り傷だ。焼けた黒い顔には、それが白く浮かび上がっている。何年も前に大きな事件を担当していた時のものらしいが、理由を知っている者はほとんどいないらしい。

 橋端真由は、警察学校を卒業して四年目になる。昨日、捜査一課に異動してきた二十六歳の新米女刑事だ。膝が半分隠れるスーツのタイトスカートに、肩から下が大きく波打ってしまう髪を、こざっぱりと後ろで一まとめにしている。

 前日は小楠と共に紹介を兼ねた挨拶回りをし、今日は自分の机となった席に荷物を運び終えたところである。小柄な体格に、一つに束ねた艶やかな黒髪、容姿は美人とまでは言えないが、可愛らしい部類には入るだろう。

 彼女の父親は警視である。父親が上の人間とあっては、事実性もない因縁を吹っかけられたり同僚たちから嫌われるものだが、真由に限ってはなかった。少し不器用な彼女は、どんな仕事にでも一心に取り組もうとする努力家で、何より飾らない自然な態度や、男女を分け隔てない裏表のない性格が好かれていた。

 真由が呼び出されたのは、新しいデスクへの引っ越し作業が長引いたために遅くなった、昼食のあとのことである。