真由は、視線をそろりと動かし、宮橋の端正な横顔を窺った。

「宮橋さん、この着信音って……」
「子供番組であった、『皆一つ~皆仲間なのさ~』のヤツだよ」

 宮橋は口笛でその音程を再現しながら、薄い折り畳み式の携帯電話を取り出して「おや」と意外そうな表情を浮かべた。しばらくそれを眺めた後、電話に出る。

「やあ」
『やぁ、じゃねぇよ! さっさと出ろ! てめぇは毎回、俺の電話だけいちいち妙な空白を置きやがって』
「で、どうしたんだい?」

 受話器からもれたのは、三鬼の怒号だった。真由は、聞き耳を立てながら、太腿の上に置いていた手帳を、意味もなく握ったり背表紙に触ったりしていた。

『被害者の名前は、大沢伸だ。入店時の様子を聞き出した。藤堂の手帳に、第三の被害者大沢伸って書いとけ』

 宮橋が目配せする。

 真由は頷き返して、普段から胸ポケットに携帯しているペンを手に取った。タイトスカートの上にしっかり手帳を置いて、カナカタで「オオサワノブ」と読みやすい字で明記する。