「現時点で報道したとしても、勝手な不安を煽るだけだろうな。まず凶器はなんだ、犯人は一人か複数か? どうやって生きたまま人間を切断できる? 短期間に三人殺が殺されて、未だに何も特定出来ていない」

 真由は、君は馬鹿かというような表情を向けてくる宮橋に、けれど全く気にした様子もなく「私、ちょっと思うんですけど」と続けていた。

「あの被害者は、どうして一人でこのカラオケ店に入ったんですかね?」

 そう自分で尋ねておいて、ふと直観的な閃きを見せて「あっ」と言った。

「そっか! きっと誰かに呼び出されて、その人が犯人なんじゃないですか?」
「確かに、彼の携帯電話は非通知で二回、着信が入っていた。――でも彼は、呼びだされたわけじゃない。知らず逃げ道を狭められて、ここに『追い込まれた』んだよ」

 まるで狩りだね、と宮橋は独り事のように言い、また物想いに耽ってハンドルの頬杖をついてしまった。

 被害者の携帯電話に、非通知の着信が入っていたなんて、真由には初耳だった。そういえば、現場で手に取っていたっけなと思い出していると、彼の胸ポケットから、どこかで聞いたような陽気な音楽が小さく流れ始めた。