「橋端真由、情報を叩きこめ。僕らは、早急に動かなければいけないぞ」

 一瞬、真由はぽかんと呆けてしまって、目の前に立ったすらりとした彼を見上げていた。美麗な顔が顰められて、形のいい唇が「どうした」と怪訝そうに問う。

「いえ、あの、これって藤堂さんの手帳ですよね……?」
「今回の件の情報が書かれている、大事だから預ける。僕は失くさない自信がない」

 宮橋が、偉そうにきっぱりと言った。三鬼がすかさず「いや堂々と言い放つ事じゃないだろッ」と突っ込み、持ち主である藤堂も「あとで返して欲しいです」と苦笑を浮かべる。

 大事だから預ける……と思わず口の中で反芻した真由は、押し付けられるように手渡された手帳を慌てて受け取った。尋ね返す暇もなく宮橋が歩き出してしまい、その後ろを追った。

 歩き出して数歩、不意に首筋から全身に向けて、得体の知れない悪寒を感じて振り返っていた。

 無線で鑑識らを呼ぶ三鬼の隣で、同じ表情を浮かべて辺りを見回していた藤堂と目が合って、知らずお互い息を呑むのが分かった。後ろから、宮橋が急かす声がして、真由は逃げるようにその場を後にした。
 
             ◆◆◆

 宮橋のスポーツカーに戻った真由は、車のエンジンをかけてハンドルに腕を乗せた彼に、カラオケ店をぼんやりと見やりながら指示され、藤堂の手帳に記載されている今事件の内容を声に出して読み進めた。